慢性中耳炎・真珠腫性中耳炎

慢性中耳炎とは

慢性中耳炎とは慢性単純性中耳炎(慢性化膿性中耳炎)と癒着性中耳炎の2つがあります。慢性単純性中耳炎(慢性化膿性中耳炎)は、急性中耳炎が治りきらず鼓膜に穴が開いたままになり、耳だれ(耳漏)を繰り返す症状です。癒着性中耳炎は鼓膜が中耳腔の壁にくっついてしまう症状です。どちらも鼓膜や耳小骨に異常をきたすため、聴力が低下します。中耳腔が慢性的に炎症が起きているため細菌感染を起こしやすく、持続性・反復性の耳漏が出てきます。

慢性単純性中耳炎とは

急性中耳炎と違い、穿孔(穴が開いている状態)が閉じません。音を十分に捉えられず聴力が低下、難聴になります。中耳腔内で細菌感染を起こしやすいため、そのたび穿孔を通して排膿が起こり、耳漏(耳だれ)が起こります。

癒着性中耳炎とは

中耳腔の粘膜に鼓膜がひっつき空気の入るスペースがなくなります。感染を引き起こしやすく、いったん感染が起きると難治性の耳漏(耳だれ)になります。悪化すると、耳小骨が溶け聴力はさらに低下します。重症の場合、1回の手術では治らず、10カ月以上の間隔をあけて2回以上の手術が必要になることがあります。

慢性中耳炎の原因

幼小児期に中耳炎に繰り返しかかったり、長期にわたって炎症が収まらなかったことがある方に多いようです。また耳管の機能低下も一因と言われています。炎症状態が続くと、線維性組織が増殖し、「肉芽(にくげ)」が形成されることがあります。
肉芽は細菌の温床になりやすく、持続的な耳漏(耳だれ)を引き起こします。感染が治まっても、後遺症として中耳腔内に石灰が沈着し、耳小骨が動かなくなることもあります。特に女性は石灰沈着が起こりやすいので注意が必要です。石灰が沈着すると、手術による耳小骨の再建が必要になります。

慢性中耳炎の症状

耳漏(耳だれ)

のど・鼻の感染や風邪などで中耳腔の感染が悪化すると、中耳腔の分泌物が増えて耳から流出します。再発してしまうことが多く、抗生物質に対して抵抗力を持つ薬剤耐性菌に感染すると、症状はより持続的になってしまいます。最近は、この薬剤耐性菌による感染が増えてきました。

難聴

中耳炎が内耳に波及していくと、内耳まで障害を受けるため、感音難聴へと進行します。慢性中耳炎を長い間そのままにしておくと、耳小骨に異常をきたし、その場合はさらに聴力が低下してしまいます。感音難聴は改善が難しいため、そうならないうちに早めにしっかりと治療することが大切です。

耳鳴り

慢性中耳炎による難聴が起きると、耳鳴りになったり、今まであった耳鳴りがさらに大きくなったりします。耳鳴りの原因となる、内耳機能障害を引き起こした症例もあります。

慢性中耳炎の治療

聴力改善のため、まずは耳漏(耳だれ)のない乾いた状態にすることが先決です。耳内をしっかりと清掃し、点耳薬や抗生物質で炎症を和らげます。しかし、鼓膜の穿孔を治さない限り、耳漏(耳だれ)は再発します。再発を繰り返すと、薬剤耐性菌による感染を引き起こす恐れがあります。そうなると耳漏(耳だれ)はなかなか治らず、根本治療に手術が必要となります。聴力改善には、手術で鼓膜穿孔を閉鎖し、耳小骨の異常があれば、それを修復します。

慢性中耳炎の手術

中耳炎の状態によって、手術内容は異なります。耳小骨に異常がないかどうかを検査し、正常であれば、鼓膜穿孔のみの修復で聴力は改善します。耳小骨に異常がある場合は、聴力の改善が見込めない可能性もあるため、CT検査が必要です。鼓膜穿孔の閉鎖だけでなく、耳小骨の再建手術も行わなくてはなりません。

鼓膜形成術(日帰り手術)

局所麻酔で鼓膜を接着させます。手術の所要時間は30分程度です。耳たぶの付け根に局所麻酔を注射し、一部の皮膚を切開して、鼓膜穿孔閉鎖のための皮下組織を採取します。次が、鼓膜を再度伸ばすために大切な「穿孔縁の新鮮化」という行程です。鼓膜の穿孔縁を小さく切り取り、採取した皮下組織をいったん中耳腔内に入れて、穿孔を閉鎖します。最後に接着して終了です。日帰りでも手術可能という大きなメリットがありますが、鼓膜穿孔閉鎖率が少し低いというデメリットもありあます。

鼓室形成術

耳小骨に異常がある場合や、中耳腔内に清掃が必要な病変が存在する場合に行う手術です。耳の縁側を大きく切開し、後ろから中耳腔を確認しながら実施します。一般の病院では、通常1~2週間の入院が必要です。局麻または全身麻酔をかけて行います。耳たぶの付け根を4センチ程度切開し、外耳道の皮膚を周囲の骨壁から剥がして、鼓膜や中耳腔内の施術を行います。当院では行っておりませんので、他病院に紹介となります。

鼓膜穿孔の閉鎖には、サンドウィッチ法とアンダーレイ法があります。サンドウィッチ法は、鼓膜を2枚に分け、耳後部から採取した筋膜をサンドウィッチのように挟み込んで穿孔を閉鎖します。サンドウィッチ法は、アンダーレイ法より難しいとされていますが、穿孔閉鎖率が高く、治癒に至るまでの期間も短いという大きなメリットがあります。

耳小骨に異常がある場合は、耳小骨の再建が必要です。異常のある耳小骨を摘出し、小さな骨片や人工耳小骨(セラミック製)を用いて修復します。

手術費用

健康保険が適用されます。

鼓膜形成術(片側、3割負担) 約54,000円
鼓室形成術(片側、3割負担) 約128,000円

真珠腫性中耳炎

真珠腫性中耳炎とは

真珠腫性中耳炎とは真珠腫(しんじゅしゅ)とは、鼓膜が中耳腔に陥没し、その中に垢がたまった状態です。細菌が繁殖やすいため、中耳炎を発症し、悪臭を伴った耳漏(耳だれ)が起こります。そして真珠腫は、骨や神経を溶かしながら、どんどん大きくなっていきます。耳小骨が破壊されると難聴になります。さらに中耳周囲の骨まで破壊されてしまうと、めまいや顔面神経麻痺など、様々な合併症を引き起こします。

真珠腫性中耳炎の原因

鼻すすりや耳管機能の悪化が原因で発症するとされていますが、原因が明確にわからないことも珍しくありません。鼻すすり癖のある方は、癖を辞めるよう指導し、癖が直らなければ、鼻すすりの原因である耳管開放症の治療をご提案します。

真珠腫性中耳炎の症状

真珠腫に細菌感染すると、悪臭を伴った耳漏(耳だれ)が起こります。真珠腫による耳漏(耳だれ)は抗生物質で治療しても簡単には治らないことが多く、ポリープが形成されると、血が混じった耳漏(耳だれ)になることもあります。

真珠腫で難聴になると、真珠腫がかなり進行している証拠です。さらに三半規管周囲の骨まで破壊されると、めまいが現れます。中耳腔の壁の中にある顔面神経にまで炎症すると、顔面神経麻痺になってしまいます。真珠腫が頭蓋内に影響を及ぼした症例もあり、その場合、髄膜炎や脳膿瘍など致死的な病気を引き起こす危険性があります。

真珠腫性中耳炎の治療

真珠腫は中耳腔からその後方の乳突部にまで達していることが多く、このため真珠腫摘出には、中耳腔内の鼓室形成に加え、乳突部を開放し清掃する乳突削開を行います。当院では行っておりませんので、他病院に紹介となります。

真珠腫性中耳炎の手術方法は、大きく分けて外耳道後壁削除型と外耳道後壁保存型の2パターンです。外耳道後壁保存型鼓室形成術は、短期入院で済み、通院期間も短いというメリットがあります。本来の外耳道を保てるため、聴力が得られやすいのも特長です。

全身麻酔で行います。耳たぶの付け根を4センチ程度切開し、外耳道の皮膚を周囲の骨壁から剥がして、鼓膜や中耳腔内を手術します。外耳道後方の骨を削開し、乳突洞と呼ばれる部分を開放します。真珠腫摘出後、破壊された耳小骨を再建。鼓膜が再び陥没しないよう、軟骨で鼓膜を補強したり、中耳腔への換気ルートを確保したりするなどの再発防止策を施します。最後に鼓膜内陥部分を修復して、終了です。

手術費用(1泊2日入院手術)

健康保険が適用されます。

鼓室形成術(片側、3割負担) 約128,000円
鼓室形成術・乳突削開術(片側、3割負担) 約158,000円